タイトル
大変革時代に売上を伸ばしている企業のマーケティングトレース【ブランディングテクノロジー株式会社 執行役員 黒澤 友貴氏】
オープニング
【FREE WEB HOPE代表取締役社長 相原祐樹氏】
今回は、ブランディングテクノロジー株式会社の執行役員、黒澤友貴さんにご登壇いただき、「マーケティングトレース」について解説いただきます。
黒澤さんよろしくお願いいたします!
※イベント風景※
(以下は黒澤氏のプレゼン内容を記載しています。)
はじめに
黒澤友貴と申します。
「マーケティングトレース」という言葉を2年前ぐらいに作って、「マーケターの筋トレ」いうコンセプトのもと、みんなでトレーニングするウェブ上のコミュニティを運営しています。
本業はブランディングテクノロジーという会社で、中小企業様向けのブランディングやマーケティング支援をしています。
今日はまず「マーケティングトレース」を初めての聞いたという方もいらっしゃると思うので、これについて簡単にご説明をさせていただきます。
そしてアパホテル、どうぶつの森、NewsPicksの3つのブランドについて実際にトレースしていきます。
最後はこの不況の中、アフターコロナでも成長していくブランドの共通点を皆さんにお話させていただきます。
3ブランドのトレース内容はnoteで共有しているので、そちらでもご確認ください。
マーケティングトレースワークシートもあるので、手を動かしながらやっていただくと学びが深まるかなと思います。
マーケティングトレースとは何か
最初に、マーケティングトレースとは何かという話。
なぜこういうものを作ったのかというと、自分が10年間ぐらいデジタルマーケティング分野に関わる中で、「マーケターにとって何か基礎トレーニングができないかな」と思っていました。
他の職種、例えばデザイナーだったら「UIトレース」という優れたデザインを模倣して、自分の中に良いデザインのストックを蓄積していくトレーニングがあります。
ただマーケターが何かを学んでいこうとなった時に、効率的な学び方が体系化されていない。
そこでもっと経営とマーケティングをつなぐトレーニングを作ろうと考えました。
マーケターにとって良いお手本を模倣して、頭の中に大量に良いものの引き出しを増せば、より深く戦略を考えたり、上流のマーケティングができるのではないか。
さらにはCMOを目指すといったことがやりやすくなるんじゃないかなという思いで、このトレーニングを設計しています。
マーケティングトレースのプロセスは3つに分けて行っていて、最初に「テーマ企業」を決めます。
その後はフレームワークを活用しながら、なぜこの企業が成長、成功しているのかを読み解いていきます。
最後に自分がCMOだったら、と視座を上げて仮説を出す、という形で進めていきます。
普段は広告運用しかしてないとか、SEO対策がメインの業務になっているといった方も、俯瞰的に市場を見るスキルや戦略を考えるスキルをこのプロセスを通じて身に付けていただける仕組みになってます。
noteからダウンロードできるマーケティングトレースワークシートの中身が、マーケティング戦略を考えるプロセスに則って作られているので、最初にこれについて解説します。
マーケティング戦略の全体像をつかむことがテーマになっていますが、プロセスはこの3つに分かれます。
まずは「外部環境を理解する」。
PEST分析や業界構造を理解する5Forces分析と言われるものです。
ではその中で企業が他の会社との違いをどう出してるのかというところで、STP 分析があります。
最後にこのポジショニングを取るために商品価値や価格の設定、またどうやってお客さんに商品を届けていくのかを考える4P分析があります。
先ほどのワークシートに落とすと、こういう仕組みになってます。
一番上では市場構造、競合がどこなのかという定義をしていく。
中央が誰に対してどういう価値を提供しているのか、といったところを記載する部分。
最後に成功要因の言語化と「自分がCEOだったら?」を考えるといった形式になっています。
このワークシートに則って成功してる企業をトレースしていけば、誰でも戦略を学べるように作っています。
活用方法としては、個人のマーケティング戦略を描く力を鍛える、またチーム内でマーケティング戦略の共通言語がないという時に自社分析や競合分析に使っていってください。
トレース①アパホテル
最初のテーマ企業は「アパホテル」です。
皆さんご存知だと思いますが、ビジネスホテルや最近だとリゾート系のホテルを展開しています。
ビジネス的にも優良企業ですね。
売上高1371億円、経常利益で335億円、経常利益率25%弱で、ホテルを10万室持っています。
ホテル業界の中ではシェアを獲得しながら高利益率の体質を維持して、様々な仕掛けをやっているのがアパホテルの特徴です。
今回のアパホテルの分析は、中期経営計画の情報をインプットするところから始めました。
ポジショニングとしては、東京都心でトップを取るために一点集中しているということ、ターゲットは基本的にビジネスパーソンで男性が7割ということが分かります。
では最初に「プロモーション」。
広告にどういう特徴があるのかを見ていきます。
皆さんご存知の通り、元谷社長が顔を出してどんどん認知を獲得しています。
「私が広告塔になる」と明言していて、アパホテルが現在のように棟数を増やす前の段階では、
まずは知ってもらうことを重視していました。
続いて「流通」。
出店方針はとても特徴的で、駅から2分30秒以内の立地に土地を買っています。
先ほどビジネスパーソンがターゲットとお伝えしましたが、すでに認知を獲得しているので、「駅から近いし便利だから泊まるか」と早期に顧客を獲得できる状態でした。
ではなぜ地価が高い都心に出店できるのかというと、これも裏側に優れた戦略があります。
不動産価格の推移を見ると、アパホテルが都心一極集中の戦略を出した2008年はリーマンショックで土地価格が下がっています。
この不況の時に土地を買うという意思決定をしていることが非常に大きなポイントと言えるでしょう。
最後は、「ブランドの好意度」。
今回のコロナのタイミングで、軽症状の患者を受け入れたことも関係してるんじゃないかなと仮説を立てています。
実は2011年の東日本大震災でも、アパホテルは1日たりとも休まない、被災した方が泊まれるように準備をするという方針を出しています。
景気が落ち込んだり、社会が悪い状態になった時に、アパホテルはいち早くインフラとして機能するように動いています。
アパホテルのブランドイメージが強いのは、このように社会に必要とされている行動を一早く取っているからと言えそうです。
まとめると、まず認知を獲得していて、さらに「アパホテルは非常時に素晴らしい行動を取っているから好きだ」という好意、そして実際に駅近に出店しているから行きたい時に泊まれる。
このマーケティングの3つの変数をしっかりアパホテルは押さえてるんじゃないかなと分析できます。
このようにメディアの情報や経営計画を見ながらマーケティングの基本的なフレームワークに当てはめいくと、面白い裏側の戦略が見えてきます。
トレース②任天堂『どうぶつの森』
続いては、任天堂の『どうぶつの森』です。
販売から6週間で1341万本売れており、今までの『どうぶつの森シリーズ』からもずば抜けて好調でした。
緊急事態宣言が出ているタイミングだったからという理由もあると思いますが、この爆発的なブームの裏側にどんな戦略があるのかを考えていきます。
分析に入る前に、自分がこういうことに詳しくないとか、今回のように戦略情報が少ない中でどうやって調べるのかについて簡単にお伝えします。
シンプルですが、迷ったら顧客起点で考える、よく分かっている人に聞くということをマーケティングトレースにも取り入れていきましょう。
私の場合は、どうぶつの森をプレイしている妻に簡単なヒアリングをしました。
どういう機能に満足してるのか、どういう感情・情緒的価値に満足してるのか、また外に発信するといった自己表現的な価値はあるか、といった点です。
さらにヒアリングで出たキーワードを元に、TweetDeckを使ってコミュニティでたくさんシェアされている情報が何かを深堀りして理解していきました。
まずどうぶつの森にどういう特徴があり、他のゲームと何が違うのかをポジショニングマップで見ていきます。
自分の世界観を作れる自由度と自分が作っていく能動性が特徴だと分かってきたので、それを軸にしてみました。
このような特徴から、ブームの仮説として非常事態だったからこそ自由に楽しく過ごしたい、人と繋がっていたいという人の根源的な欲求に答えるような商品だったからだと考えました。
ではなぜ任天堂だけがこの爆発的なブームを生み出すことができたのか。
マーケティングトレースでは、優れた成長をしているプロダクトの裏側には、優れた組織文化があると捉えることが重要です。
組織文化を理解する時に、私が見ている3つの視点を整理します。
まず経営者や経営層がどういう人なのか。
次にどういう職種で構成されていて、どんな特徴があるのか。
その上で独自のデータやノウハウは何か、を考えていきます。
任天堂の情報収集では、「任天堂 採用」、「任天堂 特許」というキーワードで検索を掛けていきました。
例えば任天堂はクリエイティブなイメージが全面的に出ていますが、法務部がかなり強いと言われています。
つまり生み出したアイデアを守る点が任天堂の優位性の一つでしょう。
さらに今後皆さんが組織構造や文化を理解する際に、フレーム化したほうが使いやすいかなと思って、こういったものを作ってみました。
これは9つの視点に分けて、中央にある競争優位性に対し、どのように組織の特徴が繋がっているのかを表しています。
任天堂の場合では、独創を重要視する理念があり、経営者としては亡くなった岩田元社長がそれを受け継いでNintendo Switchの構想を作り、ドンキーコングやマリオの生みの親である宮本さんという天才プロデューサーもいます。
キャッシュの点では、株主に対してあまり配当せず、自分たちの中にお金を貯めこむという有名な話があります。
だからネットキャッシュが7500億円あり、研究開発費に毎年500億円掛けているので、いつも自分たちが本当に面白いものを追求することができる。
この辺りの財務的な背景も独創的なものづくりに関わっています。
主要職種を見えると、ゲームプロデューサーにレジェンド的な方々がいたり、裏側では法務がしっかり権利を守るという構造になっている。
だからこそ任天堂は本当に面白いものを生み出し続けて、しっかり成長し続けられると分かってきます。
最後にこの組織文化と、どうぶつの森のマーケティングミックスを紐付けていきます。
自分の世界観を表現できる楽しさがある、収集する面白さがある、SNSで人と繋がれるという特徴がありますが、言ってしまえばこれはどんな会社でもできてしまうんじゃないかと思うかもしれません。
しかしその裏側には500億円の研究開発費など、組織文化があるからこそプロダクト価値が出せている。
そして先ほど説明したポジショニングが明確に取れていることが見えてきます。
トレース③ NewsPicks
最後はNewsPicksですね。
皆さんご存知だと思いますが、経済ニュースのキュレーションやアプリ、有料会員やイベント、勉強会を行っています。
なぜ今回NewsPicksを取り上げたのかというと、決算説明資料で有料会員のトライアル登録者数が3倍に跳ね上がったと書かれていたからです。
これはコロナによって余暇時間が増えたから伸びたところはあると思いますが、ユーザーから求められていないとこの数字は出ないでしょう。
そして非常に優れたマーケティング戦略があったからこそ、この伸びが出せたはずです。
この「NewsPicksはなぜコロナの中でユーザーから求められたのか」を解説していきます。
マーケティング戦略を考える時、やはり差別化要素を理解することに落ち着きます。
まずはこの視点を共有します。
私の場合、最近はシンプルにマトリックスでまとめています。
最初に横軸に競合を入れていき、縦軸に顧客がなぜこの企業を選ぶのかという理由を出していきます。
NewsPicksの場合だと競合は、日経新聞、東洋経済オンライン、あとZUUオンラインなど。
そして縦軸で差別要素は、記者なのか、編集者なのか、コミュニティなのかというところであたりを付けます。
そして3C分析と同じですが、顧客が競合と自社から自社を選ぶ理由や、競合には真似できない自社の特徴を差別化要素として考えていきます。
NewsPicksと新聞社や経済メディアとの違いで言うと、ピッカーのコメントとか有識者たちのコンテンツなどが挙げられるでしょう。
またコンテンツがスマホに最適化されているところは当然あるかなと思っています。
こういった要素に最初からあたりを付けた上で、ポジショニングやマーケティングミックスを考えていきます。
ポジショニングマップでは、先ほどの差別化要素を表してみましょう。
縦軸が「誰が言うか」と「何を言うか」、横軸が「今までの事を語るか」と「新しい事を語るか」です。
NewsPicksのポジショニングは右上になりますが、ターゲットが常に何か新しいことを求めていたり、新しいものに触れていたいという特性があるんじゃないかと仮説を立ててみました。
NewsPicksは「アップデート」や「新時代」という言葉を多用していて、落合陽一さんとかホリエモンさんが、日本が今後どう変わっていくのかということを語っています。
だからコロナの問題で将来が不安になり、ユーザーから求められたのではないかと推測しました。
次にマーケティングミックスで、差別化要素をより深掘りしていきます。
私はプロダクトにポイントがあり、「新しくて不確実なことをとにかく分かりやすく伝える」というところが一番の差別化要素だと考えました。
実際に有名なインフォグラフィックスデザイナーの方が役員にいらっしゃったり、動画系のコンテンツにどこよりも早く投資をしています。
アップデートや新時代など、ふわっとした抽象的なものを分かりやすく伝えることに、NewsPicksは非常に長けていると言えるでしょう。
任天堂の例と同じく、組織文化も重要なキーワードです。
どこのメディアもインフォグラフィックスや動画に取り組めたと思いますが、職種では旧来のメディアで働いていた編集者、デザイナー、ライターを引っ張ってきており、オリジナルコンテンツが作りやすい環境にあります。
得意な戦略としては、有識者の視点を分かりやすく複数の媒体で表現する。
さらに「経済情報で世界を変える」、「経済をもっと面白くする」という理念がベースにあり、経済というちょっととっつきにくいものを分かりやすく伝える組織文化が成り立っていると思います。
まとめると、NewsPicksの特徴としては変革とアップデート好きの顧客の心を捉えるコンテンツ。
時代の先を読むコンテンツを分かりやすく伝えるというプロダクト価値の追求。
人の部分だと、優秀な編集者やライター、デザイナーを起用してることが非常に大きいのではないかと分析しました。
不況でも成長する企業の特徴とは?
今回は3つの企業をトレースしてきましたが、最後に不況でも成長する企業に共通した特徴をお伝えします。
まずは戦略の方向性という非常に明確なところ。
そして社会や顧客ニーズとつながった戦略をしっかり描いているところ。
そして戦略の背景に、強い組織文化がある、ということだと抽象化しました。
特に今のような不確実な時代においては、マーケティング戦略だけでなく、強い組織文化を作ることが重要な指標になっていることに、
今回のトレースの学びがあるのではないでしょうか。
今回ご紹介したように、皆さんぜひマーケティングトレースに取り組んでみてください。